プログラム活動

My research on the NHS at the Royal Devon & Exeter Hospital, the U.K.

Shinichiro Maeda

I had a chance to stay at Royal Devon & Exeter Hospital (Wonford) as well as Peninsula College of Medicine and Dentistry (University of Exeter) from the 2nd of March through the 27th. During my stay, I conducted research on the NHS (National Health Service), the comprehensive government public-health service in the U.K., through an interview with Professor David Melzer, clinical placement at the Emergency Department, and a visit to a local general practice (St. Leonard’s Practice). Let me briefly touch upon what I have learned about the NHS.

Virtually the entire population in the U.K is covered by the NHS. The NHS has distinguishing features such as (1) it is primarily financed by general taxes, (2) it is free at the time of usage, and (3) General Practice (GP) and hospitals are divided, playing different roles.

With respect to (1) and (2), Professor Melzer stressed that the NHS, providing generally good health care at relatively low cost, was a rather efficient system compared with health care systems in other countries like the U.S. Indeed, the total expenditure on health as a percentage of its GDP is 9.3 % in the case of UK, while it is 16.9 % in the US, according to statistics from 2012. On the other hand, the access to medicine in the U.K. seemed in a way limited, as patients cannot go and see a doctor at a hospital unless their registered GP writes a referral for them. This is why GPs are sometime called “gate keepers”.

Consequently, the Emergency Department (ED) at Royal Devon & Exeter was invariably crowded with patients as it was the only department at the hospital which patients could visit without referrals from GPs. To handle a large number of incoming patients, they had a triage system and it seemed to be an example of striking a balance between the need to rapidly treat an urgent patient and the requirement to keep the NHS as efficient as possible. The local general practice (St. Leonard’s Practice) also had a system of quickly referring a patient to a hospital when it is urgent, while treating patients with chronic diseases less urgently.

I cannot fully elaborate on my research on the NHS, but I would like to continue my study of health care systems from a broader viewpoint of public health policies, making the most of this experience in the U.K.

英国短期留学(2015年3月)

前田振一郎

私は2015年3月2日(月)から3月27日(金)までの4週間、英国ExeterにあるRoyal Devon & Exeter Hospital (Wonford)及びPeninsula College of Medicine and Dentistry (University of Exeter)に滞在しました。小児科で臨床実習を行うとともに、以前から関心を有していた英国の医療制度(NHS:National Health Service)について聞き取りを中心に調査・研究を行うことができました。ここでは、公衆衛生を専門とするDavid Melzer教授からの聞き取り、Royal Devon & Exeter Hospitalの救急科の見学、NHSに欠かせぬ存在であるGeneral Practice(St.Leonard’s Practice)訪問などを通じ学んだNHSの実際について、簡単にご報告したいと思います。

2.NHS制度について

英国の医療は一部の民間病院を除いてすべてNHS (National Health Service) によって統一的に運営されています。NHSはブレア政権以降累次にわたって改革されているため、その全体像を把握することは容易ではありませんが、できるだけ生の声を集めて実像を把握できるよう努めました。 日本と比較した際、NHSの大きな特徴は、①医療費が税金による国の一般財源で賄われていること(日本のように社会保険方式ではない)、②利用者の窓口負担が原則として無料であること、③プライマリケアを担うGeneral Practice(GP)と、専門医療を担うHospitalの役割分担が進んでいること、などです。 上記①および②について、Melzer教授が強調していたのは、英国の医療制度は窓口負担が無料であるにも関わらず、他国、特に民間による医療供給が主流である米国などと比較して、効率的な医療制度として維持されているということです。実際、英国の総医療費対GDP比は他の先進国に比べて低い水準で推移しており、2012年の統計では米国の16.9%に対して英国は9.3%となっています(一人当たりで見ても米国7662ドルに対して英国3011ドル。ちなみに日本はそれぞれ10.3%、3220ドル)。
半面、このような「安い」医療を維持するために英国では医療へのアクセスが制限され、患者は自分の登録したGPを受診して紹介状をもらわない限り、Hospitalの専門科にかかることはできない仕組みとなっています。GPがゲートキーパーと呼ばれる所以です。英国のNHS制度への大きな不満は、この「すぐに病院に行けない」という点にあるように思います。

3.NHS制度下の救急

そのような「医療へのアクセス制限」の下で、必要な医療を緊急度に応じて届けることに腐心している現場の一つが、hospitalの救急科だったのではないかと思います。RD&Eの救急科でまず感じたのは、患者が多く、非常に混んでいるということです。上述のとおりNHSでは患者はGPにまずかかって紹介状をもらわないと、RD&Eのような病院(hospital)にかかることができませんが、その唯一の例外が救急科です。つまり、GPの紹介を経ずにhospitalにかかるには救急科に駆け込むしかなく、実際そうする人が後を絶たないため、救急科はいつも混雑しているようです。安易な救急科受診を戒めるポスターさえ貼ってありました。
このような混雑した救急科ですが、マンパワーも限られる中、次々と運ばれる患者を捌いていくため、トリアージシステムが確立していました(いわゆるER型救急に近いと思われます。)。患者は重症であればMajorの区画へ、軽症であればMinorの区画へ運ばれますが、何せ混んでいるので、Minorと判断されればしばらく待たされることとなります。なお、Majorの中に最重症を扱うResuscitation(蘇生)roomがあり、火事によって気道熱傷を負った患者や心停止に陥った患者、交通事故で肩関節脱臼と大腿骨骨折を負った患者などが搬入されていました。トリアージシステムによって、混雑する救急の中でも真に緊急度の高い患者には迅速に対応できていたのではないかと思います。常に込み合っていた救急ですが、限られた医療資源を効率的に配分するような仕組みが出来上がっていたように感じました。

4.General Practice訪問

 限られた医療資源を効率的に配分するという点では、プライマリケアを担うGPも大きな役割を果たしていると感じました。Exeter中心部にあるSt.Leonard’s Practiceを訪問し診療の様子を見学しましたが、ここでも急性期と慢性期で予約の取り方が異なるなど、緊急度に応じて必要な場合には遅滞なく病院に紹介するシステムができていました。また、NHS改革を経てGPの権限は増大し、地位も向上しているようです。今日ではGPは総合診療の専門医として育成されており、専門研修を受けないとGPとして働くことはできません。患者さんとの関係でも、単に病気を治すことだけに注力するのではなく、その生活や家族背景を含めて思いやり、適切な対応を心掛けている様子が見て取れました。ここに全てを記載する紙幅はありませんが、英国の医療を担うGPの姿は、日本の地域医療や総合診療の今後に参考になる点が多く含まれるのではないかと感じました。

5.おわりに

各国には固有の風土、歴史、文化や社会状況があり、一概に医療制度の良し悪しを語ることはできません。しかし、どうすれば医療を効率化し、同時によりよい医療を患者さんに提供できるかという点については、他国の例も参考になると思います。今回の英国での経験を活かして、今後も公衆衛生や医療制度について研究を深めていきたいと考えています。

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