プログラム活動

第8回関東リトリート(2017年8月)

8月16日,17日に山梨県石和温泉にて関東研究医養成コンソーシアム第8回夏のリトリート(関東リトリート)が行われました。今回は山梨大学主催で,群馬大学,千葉大学,東京大学,東北大学,山梨大学,横浜市立大学,順天堂大学そして金沢大学の8大学から学生48名,教員20名が参加し,本学からは学生8名,教員4名が出席しました。

医学類6年 小谷 将太  優秀演題賞を受賞

私は、「分界条床核GABA作動性神経の睡眠覚醒調節における役割」という題で、金沢大学のMRTプログラムとして実施してきた睡眠覚醒制御に関する基礎医学研究の口頭発表を行った。睡眠覚醒の一現象を神経科学的な視点から評価した研究結果を発表した。分界条床核と呼ばれる不安や恐怖といった情動形成に重要な役割を担う神経核に注目し、情動ストレスの伴う生命に危機が及ぶ様な環境の中で必須な機能である覚醒の制御の一端を解析した。今回の発表では、不安に伴う覚醒状態の制御を行う上で、様々な神経回路に依存した睡眠覚醒制御機能が存在する可能性を提示できた。今回の発表は、口頭発表の中での優秀演題賞を受賞することができた。
 口頭発表・ポスター発表ともに様々な研究テーマで発表を行っており、非常に知識を深めることができた。また、各先生方の講演や、学生企画の中のグループディスカッションでは、研究を人生のメーンとして行う上での生きがいを語り、モチベーションにつなげられた一方、人生設計やキャリアパスを考える上での不安を本音で語りあうこともできた。様々な意見が飛び交い、今までにない考えを得ることができ、充実した議論となった。
 本リトリートを通してなかなか交流することのできない遠方の大学の学生と関われたことは最終学年として非常に貴重な経験となった。来年は金沢大学が主幹としてリトリートを開催するので、金沢大学医学類卒業生として支援し、多くの参加者が多方面から集うことを願う。

医学類4年 西村 和記

 乳がんは、現在日本女性の罹患率が最も高いがんであり、死亡数も年々増加している。がん細胞が急速に増殖をするためには、その構成要素である核酸や脂質等の合成が亢進されなければならない。前者の核酸合成には様々な代謝経路が関わっているが、その一つにone-carbon代謝(葉酸代謝)経路がある。多くのがん細胞では実際にone-carbon代謝が亢進し、現在までに多くの抗癌剤がこの代謝経路をターゲットとしてきた。近年になり、one-carbon代謝酵素の中でもミトコンドリア内の酵素の発現ががん細胞で特異的に亢進していることがわかってきた。そこで、我々はミトコンドリアone-carbon代謝酵素のうち、その発現量が乳がん患者の予後と連関し、正常乳腺組織と比較して癌組織で高い酵素をデータベースでスクリーニングを行った。その結果、既にがんにおける解析が多く報告されているSHMT2, TYMS, MTHFD2に次いで、がんにおける役割についてはいまだ不明な点が多いMTHFD1L(methylenetetrahydrofolatedehydrogenase(NADP+dependent)1-like)を得た。乳がん細胞株でMTHFD1Lの発現を確認したところ、細胞株によってその発現量には差があった。そこで、まず発現量が高い乳がん細胞株のMTHFD1LをshRNAでノックダウンしたところ、がん細胞の増殖の低下が確認された。このことから、少なくともMTHFD1Lの発現が高いがん患者に対してはMTHFD1Lを標的とした治療が期待できることが示唆された。発表では、この増殖阻害の機序や効果、がん幹細胞との関連を他のミトコンドリアone-carbon代謝酵素の表現型と比較しながら議論したい

医学類4年 古川 敦

 私は今回、「抗炎症薬ザルトプロフェンによるマウス肥満糖尿病発症抑制効果の検討」という題名でポスター発表を行なった。
 メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満から、インスリン抵抗性、高脂血症、高血圧などの生活習慣病が集積して発症する病態であり、その背景には慢性炎症が存在すると言われている。また、近年の食生活の欧米化に伴ってメタボリックシンドロームや糖尿病患者数は急増し、動脈硬化などの重篤な血管疾患のリスクが上昇することから、社会的にもその対策は大きな課題となっている。肥満を伴う白色脂肪組織では、その細胞の構成が大きく変化することが明らかにされ、成熟脂肪細胞は多量の中性脂肪を取り込み肥大化する一方で、その貯蔵容量には限界があり成熟脂肪細胞数も増加する。さらには、免疫担当細胞が脂肪組織内に浸潤し、炎症性サイトカインの異常な産生によって脂肪組織内の炎症が誘引され、血管新生も促進される。このように、肥満脂肪組織では、細胞構成や細胞機能、脂肪組織の構造がダイナミックに変化した状態になる。このような病態において、メタボリックシンドロームによる代謝異常を軽減するための戦略の一つとして、慢性炎症を制御する抗炎症薬による治療方法が考えられている。本研究では、非ステロイド性抗炎症薬の1種であるザルトプロフェンを使用し、高脂肪食負荷によるマウス肥満糖尿発症の抑制効果を検討する実験を行った。その結果、ザルトプロフェンには、これまで知られていた効果以外にも新たな生物学的作用があることが分かり、高脂肪食負荷による代謝異常も改善することが明らかとなった。今後、ザルトプロフェンがメタボリックシンドロームに対する治療薬として臨床応用されるかもしれない。

医学類4年 森田 英典

 私は「愛情ホルモンオキシシンの血中結合タンパク質同定の試み」という演題で、学生や教員からの質問対応などをしつつポスター発表を30分間行った。研究発表の機会をいただいたのは今回が初めてなので非常に緊張したが、多くの方々に興味を持ってもらい質問をしていただいた。それに答える中で私自身多くの気づきがあり非常に有意義な時間を過ごせた。発表場所はホテル内のコンベンションホールセレスであり、発表内容に関しては以下に簡単に記す。
オキシトシンは通常の子宮平滑筋収縮作用や射乳作用以外に脳に作用して愛情や信頼を高める作用があり、注目が集まっている。しかしながら、オキシトシンの測定方法は未だ確立された状態ではなく、測定方法によってはバラつきや誤差が大きいという問題も残されている。本研究においては、測定方法の確立とともに、オキシトシンがどのような血中タンパク質と結合し、オキシトシナーゼからの分解から守られているのかなど、オキシトシンの血中における存在様式を明らかにするために実験を行った。まず、合成オキシトシンを環状ペプチドの状態で磁気ビーズ(FGビーズ, 多摩川精機)に結合させ、ヒト血清と混合することで、オキシトシン結合タンパクのスクリーニングを行った。結合したタンパク質は、ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)で展開し、ゲルを銀染色後、現れたバンドを切り取り、酵素消化処理することで質量分析(MALDI-TOF/MS/MS)によって、タンパク質を同定した。今回の結果から、ヒト血中でオキシトシンと結合するタンパク質の候補を複数同定することができた。

医学類3年 手塚 聡

 学生は3つのグループに分かれ、1グループずつの発表をするという形式だった。私も「ES細胞におけるOct3/4とSTAT3相互作用」という題の発表をしたが、必死で説明をしていたら、気づいたら時間が過ぎていた、という具合だった。とはいえ、上手なプレゼンテーションだったとは思っておらず、むしろ自分の持っている知識を一方的に押し付け、聞き手の理解を全く考慮していなかった、分りにくい内容だったと思う。次回リトリートなどの発表の機会が与えられた時の課題としてよく対策しておきたい。また、質問も先生方からのものは、鋭く弱みを突かれたものばかりで、自分の実験の甘さを実感した。最終的には論文投稿を目標にしたいが、まだまだ時間がかかると思った。
その他にも、学生の頃にリトリートに参加され、現在は山梨大学附属病院の皮膚科で医師をされている木下先生のお話を拝聴する機会もあった。当たり前ではあるかもしれないが、先生もリトリートに参加している学生と同じような悩み、すなわちキャリアパスの選択を考えていらっしゃったことを知り、考えを巡らしているのは自分一人ではないことを知り、少し安心できた。

医学類3年 南川 真季

 私は「フェレットを用いた脳室周囲結節性ヘテロトピアの病態生理学的解析」という題目で発表した。タナトフォリック骨異形成症(thanatophoric dysplasia; TD)は骨格系と脳神経系の形成異常を示す先天疾患である。脳神経系には脳の肥大化に加え、脳に小さなシワ(脳回)が多くできる多小脳回と、神経細胞の異所的な集積である脳室周囲結節性異所性灰白質(periventricular nodular heterotopia; PNH)が見られる。PNHの病態は現在もほとんどわかっておらず、その理由としてはTD患者の脳サンプルを得るのが困難であること、また適切なTDの疾患モデル動物が存在しなかったことが挙げられる。当研究室では高等哺乳動物であるフェレットを用いて新規のTDモデルを作成し、このTDフェレットを用いてPNHを構成する細胞群の同定およびPNHの病態解析を行った。その結果、PNHは大脳皮質上層に存在するニューロンと抑制性介在ニューロンで構成されていることを見出した。またPNH周囲では放射状グリア線維の走行に異常があることや、脳室表面に異常があることも見出した。これらのことから、PNHの形成は神経細胞の移動障害によって引き起こされる可能性があると考えている。
特別講演や学生特別企画では、基礎研究を行っている先生方の研究内容やなぜ基礎研究の道に進もうとお考えになったのかについてのお話を頂いた。どの先生も「オンリーワンであれ」と激励してくださったのが印象的だった。

医学類3年 森田 一矢

 タナトフォリック骨異形成症(thanatophoric dysplasia; TD)は骨格系と脳神経系に主に異常が見られる疾患である。脳神経系には、脳の肥大化、多小脳回(polymicrogyria)と脳室周囲結節性ヘテロトピア(periventricular nodular heterotopia, PNH)が見られる。PNHは大脳皮質の脳室周囲に存在する異所的な細胞集積のことを指すが、TD患者のPNHの病態は現在もほとんどわかっていない。その理由としては、TD患者の脳サンプルを得ることが困難であること、また、適切なTDモデル動物が存在しなかったことが挙げられる。最近、当研究室では高等哺乳動物であるフェレットを用いて新規のTDモデルを作成した。このフェレットTDモデルでは大脳皮質の脳回に異常が見られるなど、ヒトTD患者と類似の病態を示していた。今回、このフェレットTDモデルを用いてPNHを構成する細胞種の同定、およびPNHの病態解析を行った。その結果、PNHは主に大脳皮質の表層に存在するニューロンと抑制性介在ニューロンで構成されていることを見いだした。また、PNH周囲の放射状グリア線維の走行に異常があること、脳室表面に異常があることも見いだした。これらのことから、PNHは神経細胞の移動障害によって引き起こされる可能性があると考えている。

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